介護タクシー開業ガイド│一般乗用旅客自動車運送事業(福祉限定)の許可申請について

福祉車両

少子高齢化や超高齢社会といった言葉は、もはや誰もが一度は耳にした覚えのある言葉だと思います。実際に日本国内の高齢化率(総人口に対する65歳以上人口の割合)はいまだ上昇を続けており、そのことが各所において様々な社会問題を発生させる要因となっています。

需要が増えれば供給もまた増えるのが世の常ですが、統計からも、また高齢者施設でケアマネジャー兼管理者として従事していた経験を有する筆者の肌感覚からも、いまだ供給側の人手不足が解消されたとは言えない状況が続いています。

比較的新規参入がしやすい事業形態である介護タクシーについては、近年急速に市場規模が拡大する一方で、国土交通省がさらなる車両台数の確保を目指す方針を明言していることからも、今後しばらくは需要が供給を上回る状況が続くものと見込まれています。

それなら介護タクシーでもやってみるか。

このような声はよく聞こえてきますが、実は営業を開始するためには、想像よりも複雑で煩(わずら)わしい手続きを経由する必要があります。

そこで本稿では、これから新たに介護タクシー事業を開業しようとお考えの皆さまに向けて、介護タクシーに関する基礎知識や営業を開始するために必要となる手続きの進め方について、できるだけ分かりやすく解説していきたいと思います。

介護タクシーとは

介護タクシーに乗車する高齢女性

介護タクシーとは、身体介護を必要とする要介護者や障害者等が利用するタクシーの通称であって、道路運送法において正式には一般乗用旅客自動車運送事業(福祉限定)と呼ばれる事業の用に供する車両を指します。

一般的なタクシーとの違いは、車いすやストレッチャーのまま乗車することができるよう改造が施された車両(福祉車両)を使用する点や、サービス提供者が移動だけではなく利用者の介助を直接行うという点にあります。

一般乗用旅客自動車運送事業

他人の需要に応じ、有償で自動車を使用して旅客を運送する事業を総称して旅客自動車運送事業といいますが、このうち、一個の契約により乗車定員10人以下の自動車を貸し切って旅客を運送するもの一般乗用旅客自動車運送事業として定義されています。

簡単に言えば、1回につき1人から10人までの定員で乗客を目的地に運搬する事業がこれに該当します。なお、11人以上の定員で客を乗車させるものは貸切バスに該当し、旅客自動車運送事業の中の一般貸切旅客自動車運送事業として取り扱われます。

介護タクシーの場合、さらに「福祉車両」という限定条件が付いているため、利用することができる乗客は、下記のいずれかに該当する者及びその付添人に限定されています

  1. 身体障害者福祉法に規定する身体障害者手帳の交付を受けている者
  2. 介護保険法に規定する要介護認定または要支援認定を受けている者
  3. 肢体不自由、内部障害、知的障害及び精神障害その他の障害があることで単独での移動が困難であり、単独でタクシーや公共交通機関の利用することが困難な者
  4. 消防機関と消防機関と連携するコールセンターを介して、患者等搬送事業者による搬送サービスの提供を受ける者

一般乗用旅客自動車運送事業を営業するためには、営業所の所在地を管轄する運輸支局を経由して申請し、国土交通大臣の許可を受ける必要があります。これは一般のタクシーとも共通する規定です。

ぶら下がり許可

原則として訪問介護員等による自家用自動車を使用する有償運送は認められていませんが、介護タクシーの許可を取得している指定訪問介護事業者については、国土交通大臣の許可を受けることにより、これを行うことができるようになります。

より厳密に言えば許可自体は自動車ごとに行われるため、許可を受けた自家用自動車のみが、有償での運送に利用することができるようになります。

要するに二重に許可を受けている状態となり、本体の許可(介護タクシー)にぶら下がる体をなしていることから、この許可を通称して「ぶら下がり許可」と呼んでいます。

介護保険適用タクシー

介護保険で利用できるタイプの介護タクシーを介護保険適用タクシーと呼んでいますが、このタイプの介護タクシー事業を営業するためには、一般乗用旅客自動車運送事業(福祉限定)の許可のほかにも、介護保険法上の介護事業者として指定を受ける必要があります。

利用対象者は介護保険法に基づく要介護認定を受けている方に限定され、さらに担当ケアマネジャーが「社会生活上必要不可欠な外出及び余暇活動等の社会参加のための外出」をする際の移動手段としてその必要性を明確にしケアプラン内において介護サービスとして位置づけることによって、ようやく利用することができるようになります。

なお、介護事業者として指定を受けるためには法人であることが前提条件とされているため、介護保険適用の介護タクシーは、必然的に個人では営業することができません。

すべての介護タクシーが介護報酬を請求できるタクシーではないという点に注意が必要です。

必要となる資格

基本的には福祉車両1台からスタートすることができる事業ではありますが、自動車を使用する点や、身体介助をサービスに含む点から、以下のような資格が必要になります。

普通自動車二種免許

いわゆる二種免許は、運賃を受け取る旅客運送において必要な免許であり、介護タクシー事業を開始する上でも必須の資格となっています。普通自動車免許を取得してから通算3年以上の運転経験を有する21歳以上の者が取得することができます。

個人で介護タクシーの開業を目指すのであれば、まずは普通自動車二種免許を取得し、福祉車両の確保などの要件などをそろえて申請すれば、介護タクシードライバーとして業務をすることが可能になります。

介護職員初任者研修

介護職員初任者研修は、かつてのホームヘルパー(2級)に該当する資格です。単に福祉タクシーのドライバーとしてのみ業務を請け負うのであれば、必ずしも必要な資格ではありませんが、利用する側は当然に介護サービス付タクシーという認識があるため、その需要に応えるためには最低限取得しておきたいところです。

必要となる手続き

すでに説明したとおり、介護タクシー事業を営業するためには営業所の所在地を管轄する運輸支局に対して書類を提出し、国土交通大臣の許可を受ける必要があります。

また、実際に事業を開始するためには単に許可を受けているだけでは足りず、ナンバープレートの交換や運賃及び約款の認可を受けるなどの手続きが必要になります。順を追って解説しますが、営業を開始するまでのプロセスは以下のとおりです。

①許可申請書の提出

②法令試験および事情聴取の実施

③審査基準に基づく審査

④許可処分

⑤許可書の交付

⑥許可書の交付

⑦登録免許税の納付

⑧運賃・約款の認可

⑨事業の開始

許可申請書の提出

営業所の所在地を管轄する運輸支局に対して必要書類を提出します。この段階で書類の不備や添付書類の不足がある場合は、その場で補正を指示されることがあります。

法令試験および事情聴取の実施

申請書が受理された日以降、運輸局において適宜実施されます。

審査基準に基づく審査

審査は後述する公示基準に基づいて行われます。基準に適合しない場合は却下の対象になります。

許可処分

標準処理期間は2か月と定められていますが、申請者が補正処理対応を行う期間は標準処理期間に含まれないため、余裕を持って準備に当たるようにしましょう。

許可書の交付

許可処分が下されると運輸支局から許可書が交付されますが、すべての手続きを完了していなければ事業を開始することはできません。

登録免許税の納付

許可書の交付後、登録免許税30,000円を指定された期限までに納付します。納付後は領収書本通を所定の届出様式に添付して運輸局へ提出する必要があります。

運賃・約款の認可

運賃及び約款に問題がないかを確認するため、営業所の所在地を管轄する運輸支局に対して運賃及び約款の認可申請を行います。標準処理期間は1か月程度ですが、申請者が補正処理対応を行う期間は、補正に要する期間は標準処理期間に含まれません。

事業の開始

事業開始後は、運輸開始届を提出します。この届出が受理されることにより、許可申請から事業開始までのすべての手続きがようやく完了することになります。

法令試験について

法令試験は毎月1回開催されますが、不合格の場合には翌月に再受験となります。試験があると知ってドキッとする方も多いと思いますが、普通に対策していれば決して難しい試験ではありません。

出題範囲
  1. 道路運送法
  2. 道路運送法施行令
  3. 道路運送法施行規則
  4. 旅客自動車運送事業運輸規則
  5. 旅客自動車運送事業等報告規則
  6. 自動車事故報告規則
  7. 一般旅客自動車運送事業の遂行に必要な法令等
設問方法○×方式
出題数30問
試験時間40分
合格基準点80%(30問中24問)以上の正解
※参考書籍の持ち込みが可能です。

許可の基準

一般乗用旅客自動車運送事業(福祉限定)の許可を受けるためには、事業の内容が以下の4つの基準にすべて適合するものであることが求められています。

  • 車両基準
  • 人的基準
  • 設備基準
  • 資金基準

車両基準

  • リフト、スロープ、寝台、タクシーメーターなどの設備を備えた車両であること
  • 回転シート、リフトアップシートなどの装置を備えた車両であること
  • 申請者が使用権原を有する車両であること

原則として使用する車両は上記の基準に適合するものであることが求められます。他方、以下のいずれかに該当する者が乗務する場合には、例外的にセダン型などの一般自動車を福祉車両として利用することが可能になります。

  • ケア輸送サービス従事者研修の修了者
  • 介護福祉士
  • 訪問介護員
  • 居宅介護従業者

使用する車両は必ずしも自己所有である必要はありませんが、リースや賃貸である場合は、その契約期間が1年以上あることを確認することができる契約書等の提示を求められます。

人的基準

  • 普通二種免許を持つドライバーがいること
  • 運行管理者、指導主任者、整備管理者及び苦情処理責任者を配置すること

保有車両が5台未満の場合であれば、運行管理者及び整備管理者はともに有資格者である必要はありません。また、保有車両5台以上の場合は、整備管理責任者を外部に委託することも可能とされています。

なお、運行管理者と指導主任者とを兼務することや、整備管理責任者と運転手とを兼務することは可能とされています。

設備基準

  • 使用権限が3年以上ある営業所、車庫及び休憩仮眠施設があること
  • 車庫、休憩仮眠施設は、他の用途に使用される部分と明確に区画されていること
  • 車庫は営業所から直線2㎞以内の営業区域内にあること
  • 車両と車庫の境界及び車両相互間が50cm以上あること
  • 車庫の前面道路が車両制限令に抵触しないこと
  • 点検、整備及び清掃のための水道等の清掃施設があること
  • 休憩仮眠施設は営業所または自動車車庫と併設されていること

休憩仮眠施設は原則として営業所又は自動車車庫と併設する必要がありますが、これらと併設することができない場合は、営業所及び自動車車庫のいずれからも直線2㎞の範囲内に設置することでこの基準をクリアすることができます。

資金基準

  • 所要資金の見積が適切で、合理的な資金計画があること
  • 所要資金の50%以上、かつ、事業開始当初に要する資金の100%以上の自己資金があること

資金計画では、所要資金の50%以上、かつ、事業開始当初に要する資金の100%以上の自己資金を確保することが求められます。

また、自己資金は申請日から許可取得までの間、常に維持し続ける必要があります。これは手続きにおいて2度確認が行われることを意味します。したがって、いわゆる「見せ金」は通用しないことになります。

所要資金について
①車両取得価格または
1年分のリース料
②土地・建物取得価格または
1年分の賃借料
③機械器具・什器備品取得価格
④運転資金人件費、燃料費、修繕費、油脂費など2ヵ月分
⑤保険料1年分
⑥租税公課1年分
⑦その他の開業費用広告宣伝費、水道・光熱費、通信費、雑費など2ヶ月分
事業開始当初に要する資金について
車両頭金 + 分割支払金またはリース料の2ヵ月分
※一括払いで取得する場合は、所要資金①と同額
土地・建物頭金 + 分割支払金のまたは賃料の2ヵ月分
※一括払いで取得する場合は所要資金②と同額
所要資金③~⑦の合計額

介護タクシー開業サポート

解説してきたとおり、介護タクシー事業として営業を開始するまでに踏むべき手続きは非常に複雑かつ煩わしい作業となります。営業を開始するまでには通常3~4か月の期間を必要とするため、開業前の尋常ではないストレスを蓄積させるこの期間を、不慣れな手続きに浪費することは得策ではないように思います。面倒な手続きは専門家に任せて、ご自身は開業に向けた準備に専念することを強くお薦めしております。

当事務所は福祉と手続きのエキスパートです

弊所では兵庫大阪京都の全域にわたり、介護タクシーの開業に必要な手続きの代行を承っております。基準適合性の確認から、書類作成、運輸支局との協議、法令試験対策及び申請の代行に至るまで、しっかりとフルサポートいたします。

下記は市場価格を反映させて設定した報酬額ですが、弊所は「話しの分かる行政書士事務所」を標榜しています。代表は高齢者施設を運営していた実績を有する福祉の専門家であるとともに、現役のケアマネジャーという傾聴のスペシャリストです。自身がケアマネジャーであることからも、さまざまな事情をくんだ上での柔軟な対応(報酬額を含む)には自信があります。介護タクシー事業の開業でお困りの際は、弊所までどうぞお気軽にご相談ください。

介護タクシー開業サポート
(個人さま)
132,000円〜
介護タクシー開業サポート
(法人さま)
165,000円〜
※税込み

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